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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(ク)3号 決定

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

最高裁判所の裁判権を定めた裁判所法第七条は、「最高裁判所は左の事項について裁判権を有する」と規定し其第一号は、「上告」と言い、第二号は、「訴訟法において特に定める抗告」と言つて居る。第一号は、右の如く単純に、「上告」と言つて居り又最高裁判所の裁判権を定めた同法第十六条の第二号は、「……地方裁判所の決定及び命令に対する抗告」と言い、地方裁判所の裁判権を定めた、同法第二十四条の第三号も同様の字句を用いて居る。然るに第七条第二号に限りこれ等の用語例に従わず「訴訟法において特に定める抗告」と言う様な特別の字句を用いて居るのは、特別の意義があるのである。此規定は従来の大審院と異り僅少の裁判官を以て構成するに拘わらず其権限は遥かに重大且広汎である最高裁判所の負担があまりに過重になることを防ぐため比較的重要ならざる事項に関する裁判(決定命令の如き)は一応高等裁判所を以て打ち切ることとし特別の場合の外最高裁判所には来ない様にすることを其趣旨とするものであるので茲に言う「訴訟法において特に定める抗告」とは、訴訟法が特に最高裁判所に(大審院ではない)申立てることが出来る旨を定めた場合のみを指す意味である。此「訴訟法において特に定める」とあるのを受けて昭和二十二年法律第七十五号日本国憲法の施行に伴う民事訴訟法の応急的措置に関する法律第七条及同年法律第七十六号日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十八条は共に「……最高裁判所に特に抗告することが出来る」と規定して居るのであつて、かように最高裁判所に抗告を申立てることが出来る旨を特に法が定めて居る場合に限り最高裁判所に対する抗告を認め、其外には一切同裁判所に対しては、抗告を為し得ない事にしたのが裁判所法第七条第二号の趣旨である。つまり右の如く最高裁判所に申立てることが出来る旨が規定せられて居る場合は、高等裁判所の決定命令に対する場合たると、他の裁判所の決定命令に対する場合たるとを問わず、最高裁判所に対する抗告を許すが、其以外には高等裁判所の決定命令に対する抗告再抗告は一切これを認めない趣旨なのである。(若しそうでなく従来訴訟法において抗告を認めて居る場合総て高等裁判所の決定命令に対する抗告を許す趣旨ならば裁判所法第七条第二号は、同条第一号の例に従い「再抗告」と書くか、或は同法第十六条の第二号及第二十四条の第三号の例に従い「高等裁判所の決定及命令に対する抗告」と言う風に書く筈である。尚右第十六条第二号及第二十四条第三号において、第七条第二号の抗告を除外して居るのは、右法文の趣旨が前記の如く「特に最高裁判所に申立てることが出来る旨を定めて居る抗告」と言う趣旨であり、従つて此場合は地方裁判所又は簡易裁判所の決定命令に対する抗告でも、最高裁判所に行く趣旨だからである。)最高裁判所に申立てることが出来る抗告の範囲が、右の如く限定せられたとなると、高等裁判所の決定、命令に対しては(前記の如き特別の場合の外)抗告を申立てることが出来ない事になり、従つて高等裁判所の決定命令は、前記昭和二十二年法律第七十五号第七条及同年法律第七十六号第十八条に言うところの「訴訟法の規定により不服を申立てることの出来ない決定又は命令」中に入ることになるから、これに対しては右二法条によれば憲法違反を理由とする場合でなければ、抗告をする事が出来ないわけである。然るに、本件抗告は憲法違反を理由とするものでない事は、抗告理由により明であり、其他本件の如き抗告を特に最高裁判所に申立てる事が出来る旨を定めた規定は存在しないから、本件抗告は不適法として之れを却下すべきものである。よつて抗告費用を抗告人に負担せしめ、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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